2023年8月1日火曜日

温泉に行かない日(514) PSVT(2)

「ええと、救急です」
「どんな症状ですか」
「ウォーキングからの帰りに、急に胸がドキドキしてちょっと苦しくなって歩くのがしんどくなりまして」
「はい」
「なんとか帰宅して横になってたんですが治まらないので、総務省のQ助っていうアプリで判定して電話しました。そのアプリ通りですと、激しい動悸が30分以上、実際には数時間続いてます」
スマホを持ってヘルスケアを開け、心拍数を見ると心拍数は200前後で推移しているのがわかった。
「症状はご家族ですか」
「いえ、本人です。住所は(日本の何処かです ※当然実際にはちゃんと伝えている)」
「今はどうですか?」
「まだドキドキしていて、胸のあたりが変な感じで、部屋で横になってます」
「わかりました。もう救急車手配しましたので、一歩も動かずそのままでいてください」
「はい、わかりました」
そのような電話をしているうちに、電話の外から救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
そして電話が切れた。
しかしワシは一歩も動くなという命令に背き、入院に備えて昔葉山のゲンベイで買った帆布製の袋に下着とか常用薬とか詰め込み、あと心配だったのは診察券と保険証。
保険証は普段は車に保管している。
したがって車まで取りに行く必要があるが、救急の電話の人からは一歩も動くなと厳命されている。
部屋の中をちょこまか動いて入院に向けての身支度をする程度であれば許されるが、自宅から少し離れた駐車場まで行くのは流石に憚れるじゃろうと、ドキドキする胸を抱えながらワシは思った。
まあ、救急隊の人に車まで行ってもらえばよいじゃろう。
そうこうしながら玄関先で待っとると、いよいよ救急車のサイレンが実際に近づいてきた。
サイレンの音が止まり、インターフォンがピンポンとなった。
すぐに解錠し、それと同時に救急隊の方が3名、玄関になだれ込んできた。

実はその先はあまり覚えていない(疲れていたのかしんどかったのか…)。
玄関先から拉致された犯人の如く両脇を支えられ、救急車まで連れて行かれ、ストレッチャーに載せられた。
救急車に載せられ、あっと言う間に色々なセンサーを躰に付けられ、その結果、
「いやあ、脈早いです」
「血圧測って」
「ええっと、最高80ですね」
「ひくいなあ、これより下がるとちょっと…ちょっといかんね。心拍は?」
「220」
「こっちは下がらんな。こりゃあ(なんとかかんとか英語を云ったが聞き取れなかった。英字4文字の略語っぽい感じ)だなあ。酸素、マスクつけて酸素酸素。なんとかリットル(何倍とか言うのも聞こえた)流して」
「これ、Pナントカかも知れないなあ」(またしても聞き取れなかったが、最初がPの4文字略語なのはわかった)
ワシの肺に酸素を送り込むための透明なマスクが口に嵌められた。
「取り敢えずまずA病院連絡してみて」
この病院は市街地近くにある二次救急を受けている総合病院じゃ。
「わかりました」
「Aさん(私のこと)、緊急連絡先は?家族、奥さんの連絡先は?」
「電話もってないんですよ」
「どこにいるんですか今」
「遠方(実際には具体的な出先を伝えている)にいます」
「他に連絡先は?」
「子供は◯◯(関東)と△△(関西)にいます」
「スマホ貸してください。電話します」
「A病院断られました」
「もっと酸素かな。もっと濃くして5倍(だったかな。そんな記憶)」
「うーん、じゃあB病院に電話して。だめだったらCに」
「はい」
脈拍数220、最高血圧80という状況であるのにも関わらず、ワシは(いやあ、Cだけは困るなあ。遠いもんなあ、不便だもんなあ。なんとかBにならんかなあ)
などと誠に身勝手なことを考えてことは正直に告白しておく。
「お子さんの◯◯さんの方にかけたけど圏外だね。どうするかな。他にいないの」
へ?
親族への連絡にそんなに拘るの?
なんで?
死ぬんですかもしかして、と思いワシはかなりビビった。
「B病院、受けてくれました」
「よかった。OK。酸素もっと濃く」
とかなんとか。
他にもワシのバイタルについて車内でやり取りしたり、B病院が受けてくれたのでワシの状態をそのB病院に報告したりいろいろやっとったみたいじゃが、少し苦しくてあんまり覚えておらん。
そのうちサイレンの音が止まり救急車も止まり、つまりB病院に到着した(みたい。外が見えないのでわからない)。
実はワシ、そのB病院はよく知っているし、救急(ER:高度救命救急センター)の入り口もよおく知っとるが、ぐんなりしとるせいかどこに着いてどこからどうやってERに搬入されたのかは全く分からなかった。
ストレッチャーが救急車から降ろされ、ゴロゴロと転がされ、テレビで時々見るような救命救急センター内に担ぎ込まれた。
センターの看護師っぽい人が救急隊員に、
「そこの真ん中のとこに入れてください」
と指示し、ワシはそこで救急車のストレッチャーからERのストレッチャーに移された。

ワシは生まれて初めてERに担ぎ込まれた。

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たぶん。