これを書いているのが外来受診日から1週間弱経過した8月5日なので、先生との会話の細かい内容はきちんと覚えておらんスミマセン。
氏名誕生日で本人確認してから先生は、今日行った検査の結果は特に問題なかったことを最初に云って、その後カラー版の医学書のようなものを広げてワシに見せてくれた。
「Aさんの場合は、これですね」
そのページには不整脈が10パターンくらいのグラフで書いてあって、その中で脈の頻度が一番激しいやつを指し示した。
極めて短い周期で脈がどくどくしとる様子がよく分かるグラフじゃ。
「これ、発作性上室頻拍っていいましてね」
ほっさせいじょうしつひんみゃくぅ?
知らん、聞いたこともない。
「はい、発作性上室頻拍。突然脈拍数が上昇する病気です」
「突然、ですか?」
「そうですね。心臓そのものっていうよりは、心臓を動かしてる電気信号がおかしくなるような感じですね。心臓は神経から送り出される電気信号で動いているんですが、その信号がおかしくなる」
「ははあ」
心臓は電気の信号で動いとるのか。
知らんかった。
ただ、人間ドックのときに意味も分からず心電図というのを受けていて、昨日も受けたかな。
考えてみりゃああれはその信号に異常がないかどうかを見とったんだな。
その電気の信号が何らかの理由で早い周期で送り出されるという様な話なのかね。
「きっかけとしては、運動、飲酒、喫煙などがあると言われてます」
すべて当てはまっとるじゃないか笑。
まあその時は酒は呑んどらんかったが、ウォーキングしとったし、合間に数本加熱式のタバコも吸ったし。
あといろいろ説明を受けたが、まあ病気としては死に至るようなものではないのはなんとなくわかった。
実はワシ、発作の時に胸に違和感、痛みまでは行かないけど違和感というかそんな感じがしておったため、狭心症なのではないかと怯えておった。
そのような心臓血管的な病気ではなさそうなのはとりあえず一安心だと思った。
「それでですね、発作へのとりあえずの対応としては、もしかして昨日もやったと思うんですが、トイレでの排便時のような感じで息む、ってのがあります」
「ああ、はいやりました。あっという間に心拍数が下がって驚きました」
へえ、あれは民間療法じゃなくて正式な治療というか手技なんだ。
「あと、氷水に顔をつけるってのも有効です」
「はあ?そうなんですか」
氷水に顔面をつけるだぁ?
なんか、怪しい対応法ばっかりじゃないか。
ホントなのかなあ。
でも実際昨日は息んで収まったし、先生がヘンな嘘をつく意味もないからホントなんじゃろう。
聞くと、顔面氷漬け法やトイレ式息み法をすると迷走神経を刺激するそうで、それにより症状を収めることができるらしい。
「しかしですね、息むことは置いといて氷水なんていつもあるわけではないですし、遠方にでかけたときとか周りに人がいないときとかにそれらの処置をしても症状が治まらないと困りますよね。発作はいつ起こるかわかんないですからね」
その通り。
今朝もバスで行こうかクルマで行こうか悩んだのは、運転中に症状が出てどうしようもなくなったらやばいなあと思ったからじゃ。
「そうなると、しばらく様子を見るとかいうのはやめて、もう根治しちゃったほうがいいと思うんですよ」
「はい、根治ですね。どんな治療をするんですか」
「おかしな信号を送る神経を焼いちゃう治療です」
ああ、それは聞いたことがある。
「アブレーションってやつですか」
「ああ、そう。そのアブレーションです。よくご存知ですね」
アブレーションという言葉とその処置内容は耳学問程度には知っとったが、どのような病気に対してそれをするのかということまでは知らんかった。
頻脈に対してやるのか。
しかしですな、いきなり正面切ってズバッと「あなた、ご自身の心臓の神経を焼きませんか」って勧められると、そりゃそれなりにビビります。
「え!ちょ、ちょっと待ってください」
カテーテルじゃ。
確か造影剤入れて鼠径部のあたりからほっそい管を入れて行ってじわじわと心臓に近づいて行き、ちっちゃなパイプを血管にはめたり神経を焼いたりするやつじゃ。
今まで他人事と思っとったが、如何にほっそいとは云え、いざ自分の心臓にそんなものが侵入してくるとなるとやっぱり怖い。
「そうですよね。しばらく様子を見てさっきの対症療法で凌いで、でも何回も起こるようだったらアブレーションするって云う手もあるんですけど。でもまあやっちゃったほうがいいと思いますね」
うーん、そうか。
まあ信頼できそうな先生じゃし、その先生がそう云うならやってもいいか。
よし。
「わかりました。お願いします」
「うん、それがいいと思います。ではその方針で行きますけけどその前に一回不整脈外来にかかりましょうか」
M先生とは別の不整脈専門の先生がいて、その先生に診てもらってその結果で最終的にやるかどうかを決めるということになった。
受診日は8月末。
それまで発作が起こったら困るので、ワソランという頓服薬を5錠処方してもらった。
あ、そうだ。
「先生。この病気の略語みたいなのはあるんですか?Pで始まる4文字くらいの」
「はい、PSVTって言いますね」
これだ。
帰宅後調べてみると、paroxysmal supraventricular tachycardiaの略だそうだ。
もちろん発音できない。
あんたもできんじゃろう。
しかし、アブレーションかあ。
まさか自分が受けるとはなあ。