2022年2月20日日曜日

やぎさんが好き!(63) 磐田市消防本部 磐田市消防署豊岡分遣所北

新東名の真下にある磐田市消防本部 磐田市消防署豊岡分遣所(静岡県磐田市合代島438‐1)の北側にやぎさんがおるらしいと聞いてわしは早速出かけた。
この辺りは時々通りがかるんじゃが、やぎさんの雰囲気はあまり感じられんので詳しく探索することはなかったが、本日はきちんと探してみることにした。
消防署の西側道路はだいぶ広くなっとるからクルマはその辺に停められんこともなかったが、やはりそこは消防署。
喫緊の事態が出来してわしのクルマが原因でスタートが遅れても困るので他をあたることにした。
停められそうな場所を探してゆっくり走ると、探索するまでもなく分遣所のすぐ北側の畑の中に白いやぎさんがへたり込んでおるのがわかった。
このようなへたり込みをわしは「やぎさん座り」と呼んどる。
やあおるなあ、と嬉しくなりつつ駐車場所を探すと、少し離れた近所の人にも迷惑にならん場所を見つけてそこに停めた。
クルマを降りてやぎさん方面に歩いていくと、わしの気配を素早く気取ったしろやぎさんがむくりと立ち上がり、わしのほうを見つめておる。
わしのことが明らかに気になっとるようじゃ。
人慣れしとるのか横に行くとじゃれてくる。
立派な角をはやしておって、やや短足。
首をぐっと横に回して手をベロベロしたり、服の袖口をもぐもぐしたり、弱く頭突きをしたりするのがこの子の個性のようじゃ。
おっぱいがあるんで、女の子じゃな。

やあこんにちは
© ill-health(ruephas) 2022

目の周りと鼻っ面がピンク色しとってなかなかかわいい。
早速手持ちのミカンの皮を差し出すと、クンクンと匂いを確認してからしゃくしゃく食べる。
お、これは好物なんじゃろうと思って更に差し出すと、今度は口にしようとせん。
好き嫌いがあるというより気分屋なのかもしれん。
周りに生えとる草をあげたり手をぺろぺろさせたりして遊んどると、向こうから親子連れが近づいてきた。
お父さん1人と、小さなお子さんが2人じゃ。
お父さんが、「このやぎさんを飼っている人知ってますか」
と尋ねてきた。
わしのことを近隣居住者若しくは関係者と思ったらしい。
「いやあ、ちょっと通りがかったらやぎさんがいたんで遊んでいるだけで詳しく知らないんですよ」
わざわざこのためにクルマで30分も掛けて来たんですよ、と答えるのは流石に憚られた。
わしはお子さんに、
「このやぎさんはミカンの皮が好きみたいだからあげてみる?」とミカンの皮を差し出した。
お子さんは「ありがとう」とお礼を行って喜んで貰い受けてくれ、やぎさんの口元に近づけてみたが、残念ながら食べてくれん。
やはり少し気分屋なのかも知れん。
そのうち親子連れは去って行ったので、わしはやぎさんとの遊びを再開した。
と、今までずっと無言を貫いていたやぎさんがだしぬけに、
「くくくく、べへへい」
と小さくないた。
何じゃろうかと周りを見回してみたら、いつの間にか向かいの道に軽トラが停まっていて、中でおっちゃんが煙草をふかしながらこっちをじっと見ておる。
やぎさんもそちらを見て「べへへい」となく。
どうやらこのやぎさんの飼い主らしい。
おっちゃんはゆっくりと軽トラから降りてこっちに歩いてきた。
一般的には、赤の他人が自分の土地にただ勝手に踏み込んでいると、
「こら出てけ」
「うちの土地に入ってなにしとる」
と叱責を受けることが普通じゃ。
ただ不思議なことにそこにやぎさんがおり、そのやぎさんと遊んどる場合殆ど叱責を受けることはない。
わしがおっちゃんに、
「やあすみません。勝手に入り込んで。やぎさんがいたもんですから遊んでました」
と声をかけると、
「いやいいよいいよ。たくさん遊んでよ」
と、大抵はこんな具合になる。
やぎさんが好きな人に悪い人はおらん、とわしが常々主張しとるのはこれだからじゃよ。
「このやぎさんの名前はなんというのですか」
「ああ、名前は『さくらめい』っていうんだ。もう5歳になるかな」
さくらめい。
変わった名前じゃなあ。

いやあ、ニヤリとしとるな
© ill-health(ruephas) 2021

「ちょっと離れたところに鳩を飼っていてね、鳩だけだとなんかねえ」
「鳩ですか」
伝書鳩がぱたぱたぱたぱた…、と空を飛んでいくイメージが頭に湧いたが詳しくは聞かなかった。
それは置いておき、わしは。
「なんでやぎさんを飼うようにしたんですか」
その答えが実に素晴らしかった。

「一頭くらいやぎがいてもいいと思ってね」

いやあ!
これは誠に秀逸な回答じゃ。
ある意味人生訓になり得る、含蓄のある深い言葉じゃ。
わしも人生残り少なくなってきたが、この先何やり始めるにしてもそんな感じでいいんじゃないかと思った。

「このやぎは天竜のほらどこだっけほら、くんまの方に道の駅があるだろ」
「ああ、ありますね。くんま水車の里(静岡県浜松市天竜区熊1976-1)ですね」
「うん。それの上にやぎを飼っているところがあってね」
「はい。おうちの食堂(〒431-3641 静岡県浜松市天竜区熊1664)ですね。前は『たべや』っていいましたっけ」
「そこで生まれたやつをこやぎのうちに貰ったんだよ」
ははあ、あのやぎさんのお子さんかあ。
そして次にまた衝撃の発言が飛び出した。
「実はさあ、この子に餌はやったことがないんだ」
へ?餌をやったことがない???
おいおいネグレストですか。
「でもほら、ここに白菜が置いてあるじゃないですか」
地面にはややクタリとした白菜が散乱しとる。
「ああ、これはおばちゃんが持ってきてくれるんだよ」
そのおばちゃんがどのような存在かはわからんが、たぶん近所の人なんじゃろう。
明治屋醤油㈱(静岡県浜松市浜北区小松2276)等でもそうじゃが、やぎさんは可愛いもんじゃから近所の人が可愛がって餌とかじゃんじゃんくれるケースは多い。
わしの自宅の近くにも広い庭にやぎさんを住まわせとる個人宅があるが、その近所の人も許可を得た上で餌をあげとる。
ここも多分そんな感じなんじゃろう。
「今はさあこんな感じで草も生えとらんけど、それでも探して食べるし、春が来たらもうたくさん草が生えるから餌には困らんし」
確か草をワシワシ食べるやぎさんじゃったらそれで充分かもしれん。
「あとさあ、紐をもっと長くしようと思っとるんだ」
今でも充分に長いと思ったが、
「あと少し長くすればそこの小川に届くから、水も飲めるしね」
ははあ、確かに。
「全く放っているわけじゃなくて時々見に来るんだよ。前に綱が首に巻き付いたことがあってね」
それは気をつけないとねえ。
「じゃあ、もう行くけどもっと遊んでいってね」
と云って銜えタバコで帰っていった。
よしこれで「いつでも来ていいよ」との許可を貰ったも同然じゃろう。
また来ようっと。

これ、なかなかいい風景だと思うんじゃけど
© ill-health(ruephas) 2021


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コメントどうもありがとうございます。
貴方のコメントは世界とワシとあなたを救う。
たぶん。