ワシは地図が好きである件については何度も書いとる。
事務所での昼飯時は大抵Google Mapsを開いて、PCの狭い画面の中で近隣から遠方まで色んな所に妄想の旅に出かけておる。
先日も浜松近辺の短い旅を楽しんでおったら、偶然こんなところを見つけた。
わかるじゃろうか。
木工旋盤同好会と書いておる。
ワシは特段木工が好きだとか、旋盤には目がないとかいうような性癖は一切ない。
ただ、なんで気になったかというと、まあこの近辺はちょくちょく通り掛かるんじゃけども見かけた範囲では普通の住宅地で、工場地帯ではない。
木工とか旋盤とか、そのような雰囲気とかからは隔絶された一帯なわけじゃ。
また、名前そのものが気になる。
同好会。
ワシはかつて大学時代、フォークソング同好会という団体に所属しておった。
名前に反してやっておったのはハードロックとフュージョンのドラムじゃったがまあそれは置いといて、同好会と云えばそういった単なる集団であり、それが所在地を持っておって剰えGoogle Mapsに載っておるの云うのが何だか奇天烈に感じたわけじゃ。
気になったワシは現場に行ってみることにした。
このあたりは路駐なんてできる幅の道路はなく、クルマをどこに停めようかと一瞬悩んだが、幸いにしてすぐ近隣にはABCというパチ屋がある。
ワシはパチンコは大嫌いじゃから一切やらないため[1]そのようなギャンブル場の敷地には足を踏み入れたことはないが、今回ばかりはちいと利用させてもらおう。
代償として、パチンコをやる代わりに今度敷地内にある寿がきや[2]に行って餃子でビールを飲ませてもらえば充分じゃろう。
パチ屋もそれに群がる人物も大嫌いなんじゃけれども、今回は流石に一般のパチ屋客の迷惑にならんようできるだけ店舗から離れたスペースにクルマを停めさせてもろうた。
クルマを降りたワシは、パチ屋の広い敷地を横切り現場に向かった。
所在地である中区葵西6-1-43まではパチ屋からは数分の距離で、難なく着いた。
しかしその辺にはやはり木工旋盤同好会なる看板もなければ、旋盤が回るブンブンというような音も聞こえてこない。
木工旋盤同好会があるはずの道は袋小路になっておるんじゃが、行き止まりまで何回か往復してよく観察してみたんじゃけどもやはりわからん。
本当にその通りに面した建物はすべて一般のお宅、住宅であり、木工とか旋盤とかに関わる雰囲気を持つ建築物は皆無じゃ。
と、一人の爺さんがにこやかな感じでワシに声を掛けてきた。
「どこかお探しですか」
これは、道に迷った哀れな初老を助けてあげようという意思が5%、残りの95%は「不審者を誰何する」に間違いない。
まあ確かにそうじゃ。
見たこともない初老の男が通り沿いにある家を覗き込むようにして一軒一軒確認しとるわけじゃから、ワシとて逆の立場じゃったら不審に思うじゃろう。
(え、いやそのですね。ワシは怪しいものでは決してございません)と心のなかで訴えながらワシは正直に、
「えっと、実はこの近所に『木工旋盤同好会』というのがあるのを地図で偶然見つけまして、興味があったんでどんなところか確かめに来たんです」
「は?木工…?なんですか、木工、旋盤…?」
「はい、『もっこうせんばんどうこうかい』、です」
「うーん、しらんなあ。ここは見ての通り住宅地だし」
「そうですよね」
「工場ではないけど、この横には会社はある」
「はい、キーストンですね」
「そう。でもそれではないんだね」
「キーストンじゃないです。木工旋盤同好会です」
キーストンとは、まあ無理やりまとめれば建物屋とか不動産屋じゃ。
木工とは若干関係しとるかも知れんが、旋盤とは無縁じゃろう。
「この通りの一本北側の通りにはなんか会社だか何だかがあるけど、あれは工場じゃないしなあ」
「ううむ、そうですか。すみません、ありがとうございました」
ワシはその爺さんに礼を申し述べて、でも一応その「一本北側にある」という建物も確認してみたが、2階建ての建築物があり今は空っぽの様子で目的としているものではなかった。
結果から云うと要するに、現地には木工旋盤同好会の建屋そのものはもちろん、それを匂わせるようなものを全く見つけることは叶わなんだ。
謎じゃ。
もう少し調べてみよう。
[1]
正確に言うと過去には少し楽しんでおった。
1992〜1993年のあたりじゃな。
正確には覚えてはおらんが、ヒコーキ台からフィーバー台に移行した時期で、要するにパチンコの射幸性が次第に問題になり始めた時期に少しやっておったが、何が面白いのかが全くわからずすぐにやめた。
ただ、トータルで3000円か4000円は勝った状態でやめており、それがワシの誇りじゃ。
アマチュアでパチ屋に損害を与えた状態で現役引退したという人物はそうはおるまい。
[2]
一般的な「スガキヤ」ではなく「寿がきや」。
多くはパチ屋の店舗内店舗であり、単価もかなり高いのが特徴。
メニューも普通のスガキヤとは異なっていて、餃子やビールも提供しとる。
今日、敷地を横切ったときに客入りの様子を伺ってみたが誰もいなかった。