2013年2月11日月曜日

温泉に行かない日(150) つんのめっている居酒屋

以前、消化器系最末端部位に激しい痛みを伴うある病を得ました(笑)。
で、その時期困ったのがトイレです。
要するに、所用後ロールペーパーでもってその部位を拭く事なんて到底考えられず、温水洗浄トイレでないと用を足せないので、街中に配備されている温水洗浄便座付き公共トイレの情報を纏めておこうとと作ったのがJimotyのためのトイレマップというMapサイトです。
そのうちその病は治癒し(今も再発に怯えているけど)、ただその後も街中や田舎の公衆トイレを探索する趣味は消えず、今も登録数は少しずつ増えてるんですが(この辺の事情はこちらをご覧下さい)、街中や田舎にはトイレ以外にも変な物件や面白い物件がたまにあって、そのMapサイトにメモ的に載せてあります。

今回はその一つをここで紹介します。

その物件は以前から何となく目に留まっていましたが、何故か他人に対してその件について話すのがタブーなのではないかと思わせる雰囲気がありました。
なんていうんですか、

A:
「あのさあ、あそこの交差点のはす向かいにさあ、ほら、変ないざか…」

B:
(Aの発言を素早く手で遮り、摩擦音だらけの小声で)
「しっ!だめだよ。あれについてはダメなんだ。しゃべっちゃあヤバいよ」

A:
(普通の声で)
「え?なんの事?だってあの居酒屋面白いじゃない。建物がさあ、なんか右にか…」

B:
(素早く周囲を見渡し、自分たち以外に誰もいない事を確認すると、先程より摩擦度が高く更に小声で)
「オレはその件については何も知らない事になってるし、オレ以外のやつもそういうことになっている。悪い事は云わない。あの物件からは手を引くんだ、いいな。オレは帰る。危険すぎる」
(と言い残し、その恐怖に怯えた青白い顔で周りを充分に警戒しながら足早にその場を立ち去った。そしてその後、彼は、この街から消えた)

なーんて感じの「話すのも憚る」系な雰囲気があるんだよね。
勝手な想像だけど。
だからここ数年、この物件に関して誰にも聞かないまま過ごしてきてたんです。

でも、気になって仕方がない。
実はウチのカイシャには建築の専門家が何人かいるんだけど、彼らなら何か知ってるかもと思ったんで、思い切って彼らに訊いてみたんだよね。

「あのさあ~、NHKっていうかほら、牛山公園っていう危険そうなとこがあるじゃない。そのちょっと南の所になんだか茶色で妙な感じの…」

とここまで言いさしたところで彼は素早く何度も頷き、
「ああ。あの居酒屋だろ?うんうん知ってる知ってる。あれ気になるよなあ。変わってるよねえ。なんだやっぱりAさん(私の事)も気になってるんだ」
「あれ、結構有名だよ。私の周りの人間は殆ど存在は知ってるよ。だけど誰も客になる勇気はないんだよねえ」

と、なんかタブーでもなんでもない感じ。
ただ、矢張り行くには相当な決意がいる模様です。
そりゃそうでしょ。
だってさあ、


見ているだけで呑まずに酔いそう
自分の平衡感覚が信用出来なくなってくる感じ

© ill-health(ruephas) 2012
これだよ。
云うまでもないけど、私には高度な画像編集技術も装備もどっちもないからこれは無修正のモノホンです。
左奥の家や電柱と比較してもらえればすぐ解るけど、ほら、右の方につんのめってるでしょ。
この物件、地盤の構成が結構複雑な感じの所に建ってるんですが、最初見た時は余りの傾き具合に驚き、自分の眼で見て感じた事が信用出来なかった為か、
「周囲の複雑な地盤構成のせいで斜めになって見えるのではないか」
と思い込んで心の安寧を得ようとしたんです。
あるいは、
「遂にオレの近眼と老眼も来る所まで来たようだな。ある特定の物件だけ斜めに見えるなんて。明日は早速眼科か精神科だな」
遂には頭が混乱しきって、
「実はあの居酒屋こそが真っ直ぐに建っているのであって、この居酒屋の隣のクリーム色の新築住宅も、シャシン手前左側に写ってる電柱も、じつはそっちの方がななめっているのではないか」
「いやそれだけじゃない。東京スカイツリーも、サクラダファミリアも、エジプトのピラミッドも、オレんちも、きみんちも、この居酒屋以外の世界中の全ての物件は実はすべて斜めになっているというまさかの状況になっているのではわわわわわぁ!!!!!!!」
などとまで考えてしまう始末。
まあ流石にそうではなさそうな気がしますけどね。
やはり、居酒屋が傾いでいて、他の建物は正常なんでしょうね。

ところでトマソンという芸術概念があります。
いまはすっかり廃れてますが兎に角その定義は、
「不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物」
というものですが、この建物の場合、明らかに物件そのものがトマソンですね。

しかしこの居酒屋には一体何が起きたんでしょうか。
足りない脳味噌をフル稼働して考えてみたんですが、
  • 何か目に見えない巨人のような超存在に軽く蹴りを入れられた
  • 店の外右側に見えるプロパンガスボンベの辺りは実は中国の飛び地的領地で、中国と云えば爆発と陥没がお国柄ですが、矢張りここでも中国部分の土地が突如として陥没し、建物の端っこがめり込んじゃった
  • ここの家主が家の右の方に重いものを保管し続けていた結果傾いた
  • 店主が所謂「いちびり」であり、周囲からの受けを狙って最初からわざと傾けて建てたものであり、建築基準法的には問題ない
    しかし営業的には重大な問題が発生した
  • 店主は普通に設計したつもりだが、実は彼は三半規管に重大な問題を抱えていて平衡感覚が一般人のそれとは可成りずれていた
    その結果、建築途中親方に、
    「おい。なんだか基礎が傾いてるじゃねえか。真っ直ぐしねえと困るじゃねえか」
    等と茶々を入れ続けた結果、ああなってしまった
とまあいろんな想像ができるんだけど、何れも該当するとはとても思えず、どうやったらこんな状況になれるのかな。
不思議ですよねえ。

さっき話に出てきた建築の専門家というヒトは、その風貌に似合わず意外にもこの手のおもろい事が結構好きな人物で、
「じゃあAさん、今度行きますか。水準器とビー玉もって行きましょう。知り合いにゼネコンの現場監督がいるからその人も呼んで場合によってはその場で直してもらいますか、わはは。いやほんと、お銚子一本だけ呑めば完璧に酔えそうでリーズナブルじゃないですか、ははは」
「まあそうだけど、良い心持ちには酔えそうもないな」
等と喋って、出来るだけ近いうちの呑みに行く事に決めました。

ところがそれから数日後、建築専門家が私の机までやってきて、
「だめだAさん。例のななめった居酒屋、行けなくなったよ」
「なんだよ。あんまり傾いてるから『ヘイヘイBさん(建築の人の事)ビビってるぅ!』状態になったんじゃないだろうな」
「違う違う。そうじゃなくて、店たたんじゃったんだよ」
「へぇ?まじ?うそだろ~」
この居酒屋は私のカイシャからほど近い場所にあるので、その話を聞いた日帰りがけに寄ってみますと、確かに「めし処」「たかこ」[1]と書かれてた筈の白い看板が撤去されていました。
うーん、これはどうも確かに廃業臭い。

Bさんと同じくらいヘンな物好きの私は、その「つんのめった居酒屋で呑む会」のことを凄く愉しみにしてたんで、かなり残念ですが仕方ない。
これも世の盛衰の結果です。
居酒屋「たかこ」には申し訳ないけど、銭湯の廃業よりはショックは少ないものの、やはり残念は残念です。
しかし諦めるしかないですね。
後はせめてあの建物が少しでも長くこの世に留まり、その界隈を通り過ぎる人々の眼を楽しませてくれる事を願うばかりです。
頑張れ、つんのめった元居酒屋!負けるな、ななめった元居酒屋!




[1]
ここの屋号については、廃業時は上記の通り「たかこ」でしたが、Googleマップを見ると「居酒屋どぢ」になっているし(何と言うネーミングだ)、人によっては「以前は別の名前だった」等と証言する人もいたりして、謎に包まれています。
きっと何人かの経営者がこの建物を通り過ぎて行ったんでしょうね。
また向かいにある「居酒屋 神楽坂」も相当自信過剰な屋号で気になります。
その「神楽坂」度合いが実際どの程度なのか今度建築専門家と行って確かめてやろうと考えてます[2]。 

[2]
但し、上の地図で云うと物件から南東方向、丁度「日本舞踊稽古場の方に行く道は結構な下り坂になっていまして、もしかしたらこの坂の名前が「神楽坂」と云う可能性もありますが。

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たぶん。