2012年3月27日火曜日

龍宮閣(1)

熱海という場所には何回か来た事が有ります。
来たと言っても「滞在」ではなく「通過」ですけど。
高速を使わず下道で、例えば星山温泉目指して静岡から神奈川方面に抜ける時、たまに熱函道路を使ったりするため通過する場所です。
温泉地として有名だとは承知してはいるけど、私は残念な事に熱海に滞在したりそこの温泉に入った事は有りません。
なぜなら個人的には、
「熱海 = 有名 = 俗化が進んで性に合わない = 人が多くて落ち着かない」
という等式で成り立つ気持ちが強いためだと思われます。
人混みが極めて大嫌いな私の性格が強く影響しているのですね。
まあ、所謂「食わず嫌い」というヤツ。

で今回、そっち方面に所用があったので、車ではなくJR東海道線で熱海に赴きました。
JR熱海駅前近くの食堂で食事を摂り、まあ言うまでもありませんが食事だけでなく言うまでも無くお酒も呑んだんですけどね(^^ゞ、どうせの事ならついでに温泉にでも入ろうと思い、温泉銭湯でもないかなあとおもってJR熱海駅周辺をうろうろしてたんですが意外にも見つける事が出来ず、諦めて帰ろうと思った時に目に入ったのが龍宮閣(公式WebSiteでは「龍宮閣」、実際の建物や看板や個人系Siteの多くは「竜宮閣」と表記をしているが、当サイトでは公式サイトに合わせた:静岡県熱海市田原本町1-14:0557-81-3355)という旅館。
名前だけ見ると何だかラブホ的如何わしさを感じてしまいますが、決してその類いではなく、大変歴史ある旅館です。
表の看板には「日帰り・中食[1]」等という文字が掲げられていました。
「日帰り」ってのは風呂に対する形容である事が一般的であるためもしやと思い、玄関に入ってご主人にダメ元で訊いてみると「入れます」とのこと。

こりゃラッキーと思い、案内された方に向かって階段を下り、二つある浴室のうちの一つに入ったとたんに、ため息が出ました。
言葉に尽くせない素晴らしさです。
これこそ、
「実際に現場に行って貴方自身の目で確かめましょう」
と言いたい典型的なケースです。 

小振りな浴室には柔らかい曲線で構成された浴槽が配置されてます。
丁度、瓢箪を縦に半分に割った感じの形状です。
そのデザインのコンセプトは、
竜宮城 ⇒ 呑めや歌えのバカ騒ぎ ⇒ お酒徳利 ⇒ 瓢箪
なんでしょうね、きっと。
浴槽窓側は深く、出入り口側は浅くしてあり、出入り口側に行けば寝そべられるし、肩までお湯に浸かりたければ窓側に移ればいい訳で、こりゃいいや。
見た限り浴槽内に機械モノの配管出入り口は見当たらず、多分源泉掛け流しなんですが、お湯がOFしてる部分は、矢張り窓側の瓢箪の上の方です。
これは言うまでもなく、
お酒の注ぎ口
という事なんでしょうね。
養老の滝伝説[2]を思い出します。
お風呂のお湯が実はお酒、なんてね。
来るお客さんが竜宮城に来て瓢箪徳利に入ったどんだけ呑んでも空にならないお酒飲んで、鯛や鮃やきれいなおねえちゃんとチントンシャンと踊って唄って、皆ハッピーになれる場所…、って訳ですね。
掛け流し部分の床に寝転べば、勿論トド化も充分可能です。 

窓側には源泉と思われる蛇口(左側)とお水の蛇口(右側)があり、嬉しい事に入浴客が自由に調整出来るようになっていて、最近このようなシステムは非常に貴重です。
お湯の蛇口から出る温泉を触ってみるとこれが結構熱く、口にしてみると塩苦い味。
泉質は焼津黒潮温泉元湯 なかむら館のものに似ている気がします。
色は澄明で塩辛く苦い味。
海の近くっていうのはこの系統の泉質が多いのかもしれない(が根拠なし)。
私が入った時には、私にとって適温に近い温度でしたので、恐らく私の前に入った人が結構多めの水でうめたんでしょうね。
熱いお湯、或いは源泉が好きな人は、暫く温泉の方の蛇口を全開にしていればご希望の状態に近づくと思います。

さらに、左右の壁面の温泉芸術が、これが誠に素晴らしい。
窓を背にして左側には裸婦を描いたタイル絵、右側には小口タイルでモザイク的に描かれた竜宮城の絵。

裸婦の方は、残念な事にタイルの一部(上部)他が剥落してしまっていますが全体への影響は殆どなく、充分に鑑賞出来ます。
タイルの発色が誠に素晴らしいのですが、焼き物っていうのは釉薬を使う時点では当然色の出来上がりが見えない訳で、経験と想像を駆使してよくもこれだけの仕事ができたものだと思います。
左下の方に作者によるものと思しきサインが有ったのですが、メモを取る事を忘れてて非常に残念で、次回行った時に確認して調べてみようと思います。
浴室にタイル画というのは結構有りそうに見えて、最近じゃ滅多にお目にかかる事は出来ないですよね。
私は温泉・銭湯初心者の様なものなのですが、その貧弱な前提でいえば、今までいくつか通った温浴施設でこの手のタイル画があったのは、鎌倉の清水湯についで2ヶ所目です。
どちらが上とか下とかはないと言いたいところですが、大きさ、艶やかさ、色彩の豊かさ等、全ての点で龍宮閣の方に軍配を上げざるを得ないです(清水湯の方は、あの浴室の雰囲気にJustFitした清楚な感じの作品で、鯉と金魚を深いモノクロ調で表現していて、落ち着いた風情の素晴らしいものなんですよ)。

様々な色の小口タイル(1つ1㌢四方くらいの大きさかな)を沢山使用してモザイク技法により表現された竜宮城の方も本当に素晴らしい。
正にデジタルなアナログ。
貴方が今見ているPCのディスプレイ、それと同じ原理で竜宮城を浴室壁面一杯に表現している訳です[3]
はっきりした色、パステル調の色、正に様々な色のタイルを組み合わせて出来た竜宮城の世界は、本当に色彩豊かな出来上がりで、
「例え最後にジジイになってもいいや。事情が許せばマジでそっちの世界に迷い込みたいぜ」
と思わせるくらい(既にもうジジイ化が進んでるので、「例え最後にジジイになってもいいや」というのは杞憂だ)
「このような仕事が出来るタイル職人は今はもういない」(宿のご主人)ので、今後タイルが剥落しない事を祈るばかりです。

ちなみにもう1ヶ所ある浴室は、私の入った浴室に比べやや小振りで、浴槽の形状は扇型。
壁面には矢張り複数のタイルで構成された鯉のタイル画があしらわれていました。
次回はこちらも体験してみたいと思いました。

ここ龍宮閣は本当に、私の嗜好(指向・思考)にどストライク。
完璧にハマりました。
☆。
ここはもう、リピータ確実です。

ご主人によると、宿泊客(利用客)によっては、
「なんだ、ボロいだけじゃねえか。小汚ねえな」
等と吐き散らかす人もいるとの事ですが、バカですねえ。
まあ、確かにボロいです。
新築じゃないよ、確かに。
でも「だけ」とはなんだ、「ボロいだけ」とは。
このブログでは、かつて宮脇俊三氏が発明した「古色燦然」(古色蒼然のもじり)という言葉を時々借用させてもらってますが、言いたい事解りますよね。
更に、小汚いという表現は当てはまりません。
小汚いというのは「掃除が行き届いていない」あるいは「整理整頓が出来ていない」状態を指すと思うのですが、そんな事は一切有りません。
年期の入った建物を、しっかり手入れして、しっかり清掃して使っているというのが正しいです。
熱海駅から徒歩5分のところにある天国です。


----------<龍宮閣を彩ってるタダ者でないタイル職人のお仕事>----------
主義主張を曲げて、沢山撮影した写真のうちの少しだけ以下に掲載。
撮影技術のへたくそさは何卒ご容赦の程を。

竜宮閣タイル画
湯気で少し見づらくてすみません(以下同様)
お宿の名前の由来ですね
典型的な極楽タイプの竜宮城
技巧アイデア的に素晴らしいのは
左下の「竜宮閣」の文字構成
©ill-health(ruephas) 2012
竜宮閣の文字 かっこいい!
縦横の線はいいとして、斜線の部分
例えば「竜」の下の部分や「閣」の門構えの
中の「各」の部分
上手く処理しています
©ill-health(ruephas) 2012
イケメンです
鼻筋がすらりと通ったイケメン浦島さん
竜宮城でもさぞモテるに違いない
という事が言いたいのではなくて
大変解りにくいですが浦島さんの顔見てください
ぱっと見、単色に見えるけど輪郭部分とその他の部分で
タイルの色を違えて立体感を出してるんです
©ill-health(ruephas) 2012
東洋的
浴室を艶やかな雰囲気にしている4人の裸婦
セクシーかつ清楚
モネの絵っぽいですけど
彼女らの顔つきはどことなく観音様を思わせます
残念ながら上部にあった12枚のタイルは剥落
右下の2枚も欠落してますが
いずれも全体の雰囲気を失わせる部分ではなく
ラッキーです
©ill-health(ruephas) 2012
錯覚を利用
職人技は壁面だけに非ず
床面タイルは幾何学的なデザインで
角の尖ったキューブ状のものが敷き詰められているような
錯視に襲われます
歩くと痛そう
©ill-health(ruephas) 2012
痛そう
床面タイルデザインの接写
丁寧な仕事ですねー
根気が足らない私にはとても真似出来ません
いたたたた
角っこが痛いよ
©ill-health(ruephas) 2012
風情ありすぎ
タイル作品ではないけれどおまけです
龍宮閣の玄関先にある懐かしい形した街灯です
一昔、いや三か四昔程前の温泉街には
普通にあった気がしますが
今では珍しい存在ですよね
来訪時間が昼間だったため点灯しているところは
見れませんでした
残念!
©ill-health(ruephas) 2012
[1]
この「中食」という表現は、池波正太郎先生の小説の中でよく見ます。
お昼(正午)前後に食べる食事という意味ではなく、朝餉と夕餉の間に摂る食事みたいな意味の様な気がする。
気がするだけです、間違ってたらすまん。

[2]
所謂、養老孝子伝説ですね。 
http://www2.ocn.ne.jp/~ynhida/yamagatari/katari/yourou2.htm
個人系サイトのためリンク切れになったらごめんなさい。 

[3]
Microsoft Excel®を使ってこれを再現する壮大なプロジェクトを計画中。
きっと計画倒れになるんだろうな、ははは。

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コメントどうもありがとうございます。
貴方のコメントは世界とワシとあなたを救う。
たぶん。