2012年1月8日日曜日

巴湯(2)

16時丁度に巴湯に戻ると、入り口には大きくて素晴らしく綺麗な暖簾がかけられていて、思わず嬉しくなりました。
私はここでも書いてる通り、このブログは基本的に文章のみで構成し、温泉や銭湯そのもののシャシンは原則使わないようにしてますが(ただしそれ以外の、温泉銭湯に直接関係ないシャシンは意味なく使ってます)、この暖簾は余りに素晴らしいので信条を曲げてシャシンを載せます。
巴湯の素晴らしい暖簾
(C) ill-health 2012
非常にひろやかでかつ大変鮮やか・華やかな暖簾で、初めて見る人は必ず感心すると思います。
ちょっとでも風呂好き、銭湯好きなヒトであれば、これ見ただけでもうふらふらと暖簾に歩み寄り、無意識のうちにその美しい暖簾を潜り、板場に上がって服を脱ぎ始めるに違いない。
でもやはり、この写真ではその美しさは100%は伝わらないなあ。
貴方自身が巴湯にいって実際に目にしないと解らないと思いますよ。

で、感心しながらその素晴らしい暖簾を眺めていると、銭湯敷地内の傍らにある細い通路から、落ち着いた色の和服に割烹着という、現在日本では既に絶滅してしまったと思っていた正しい和装スタイルに身を包んだ女性が歩いてきたんです。
服装と同様にその物腰も落ち着いた美人(そう、はっきり書きますが相当美人)で、歩く姿も背筋がぴしっと伸びていて大変あでやか。
(失礼ながら)決してお若くはないのですが、 その年齢なりの美しさを備えています。
なんでこんな美人女性が銭湯脇の通路から…?
と訝りながら見てると、その美人女性は暖簾をくぐって銭湯の中に入っていき、番台に坐りました。

!!…わああ。なんでこんな美人女性が番台さんなんだ???

と内心たいへん驚きつつ、私も暖簾をくぐって中に入り、美人の番台女性女将さんにお金を払って板場に上りました。
板場と浴室の間は透明ガラスなので、中がよく見えます。
地元のヒトと思われるおじさんが2人、既に入浴中です。
みよし湯とか旧松の湯に比べるとやや小振りの浴槽が浴室中央にあり、そうですね、ベスト入浴人数は3人かな。
入り口側の深い部分に2人、逆側の浅い部分に1人がちょうどいい感じ。
カランは10ヶ所程度でいずれにもシャワーはありません。
裸になって半自動ドア(開けるのは手動だけど、手を離せば自動で閉まる)を抜け浴室に入り、ケロリン桶と椅子をもって浴槽の前でしゃがみ、かけ湯をして浴槽へ…

おう!
っちい!!

浴槽内のお湯、もうめっちゃくちゃ熱いです。
たぶん、私がこれまで入った中で一番熱いお湯です。
ええっと、これまで例えば、
  • 口坂本温泉の内湯
  • 蒲田温泉
  • (少し前までの)焼津黒潮温泉元湯 なかむら館
等は結構熱いと感じましたが、それらを遥かに越えてあっちっちいぃ!だ
余りの熱さに痺れる程です(この表現は誇張ではないです)。
これだけ熱ければ、例のあのオヤジ達も黙り込むに違いない。
完全江戸っ子ワールドです。
しかし私より先に浴室で湯浴みしてる二人のオッサンを始めとして、ここの常連さんはきっと、
「こうじゃなきゃ巴湯じゃねえ。うんヤッパリここの湯は熱くて気持ちいいなあ」
と思っているに違いない。
事前に少し調べた結果、
「巴湯のカランから出るお湯はやや熱め」
との情報もあった事だし、巴湯のお湯は凄く熱いのがデフォなんでしょうね。
兎に角常識はずれに熱いお湯なので本当はすごく水でうめたかったんだけど、
「ダメだ私は巴湯の新参者。常連さんには迷惑をかけられない」
となんとか踏みとどまり、必死の覚悟で肩まで湯に浸かるんだけど10秒とは持たずに浴槽の外にでて荒い息をつきつつ、火照り切った体をクールダウンするという事を何度か繰り返してました。
先に入っていたオッサン達はろくに湯船につからぬまま浴室を後にして出て行きます。
流石、常連さん達は粋ですね。
銭湯と立ち飲み屋での長っ尻ってのは嫌われるんですよね。
そうこうするうちに、別の新しいお客さんが二人、三人と入ってきました。
いずれのヒトも、板場ロッカー上の「マイ入浴グッズ置き場」に手を伸ばして自分用の桶を持ってきましたので、即ち完全常連さんだと思う。

最初は、やや長髪気味で零細企業経営者か地方文化人に見えるおっさん。
次は爺さんで、上腕部に一寸した彫り物あり。
その次は誠に見事な如来様(その彫り物の大きさも色もデザインもすべて見事)を背中全体に彫り込んだおっさんで、やっぱり元893さんなのでしょうなあ。

で、最初の零細企業経営地方文化人おっさん。
私がかなり我慢してお湯に浸かってると、そのオッサンが入ってきて浴槽脇でかけ湯をしはじめたんです。
でもなんか、
「ざばーっ!ざばーっ!」
って威勢のいい感じじゃなくて、ちょっとずつちょろちょろかけてる感じなんです。
で、ちょろちょろながらも一通り下半身を清め終わったその零細企業、非常にゆっくり浴槽に身を沈めはじめたんですけど、何か訴えかける様な目でこっちを見ているんですね。
泣き笑いな感じでこっちを見てるんです。
私はお湯の熱さに耐えながら、
「なんだろこのオッサン?不気味だな。ん!もしかして、もしかしてオッサン。さてはこのオレに気があるとでも言うのか?
などとバカな事を考えていましたが、余りに熱くて思考が正常に回らない感じ。

次に入ってきた上腕部ミニ彫り物爺さんと如来は、先にしっかり石鹸で体を洗ってから浴槽に入るのが信条らしく(素晴らしい信条ですね)、カランの前に座り込んで体中石鹸まるけにしてます。
如来の方は本当にしっかり洗ってるんで、見ているこっちが、
「おいオッサン、余り真面目に洗い過ぎると如来様の色が薄くなっちゃうよ」
と心配になる程です。

ふと横を見ると、文化人的零細企業が浴槽の縁にあるでかい蛇口をすこし開いて水を足してます。
水を少しずつ足して、それを自分の廻りに掌で巧みに誘導している…
え゛っ!?
おかしいな?
この人常連さんで、この激熱なお湯が好きなんじゃないの?
ははあ、わかった。
この零細企業オッサン、すげープロに見えるけど、さてはオレ同様の一見(いちげん)さんなんだな。
でもヤバいって。
そんな水でうめちゃったら、常連さんが怒っちゃうよ。
もし如来とかが、
「何だこの野郎!勝手にぬるくしやがって」
なんて本気出して怒ったら、おれとあんたの訃報が明日の静岡新聞社会面に載っちゃうよ、ヤバいって。

等と心の中で怯えていると、体を洗い終わったミニ彫り物が浴槽のところにきて、ざあぁーっとお湯をかけました。
とたんに顔を顰め、
おぅ!なんだこりゃあ!今日はバカに熱いじゃねえか!こんなに熱くては入れないよ。(地方文化人を見て)あんた良く入ってられるな!
地方文化人がミニ彫り物にしきりに頷いて、
「○○さん、やっぱそうだろ。今日は凄く熱いんだよ
「(文化人もミニ彫り物も揃って私の方を見て)おい、にいさん。少し水でうめるけどいいかい?」
おお、神よ。
貴方は私を助け給うた!
ミニ彫り物さん、勿論OKです。
出来るだけ早く出来るだけ大量の水を今すぐこの浴槽に足してくれ。
「はい。御願いします。私この銭湯初めてなんで、これが普通だと思っていて我慢してたんです」
「いつもはこんなに熱くないよ。でも確かにここの銭湯、一番風呂は少し熱い事が多いんだよ。よし水いれるよ」
とミニ彫り物が言って、水道蛇口を遠慮会釈なく全開にしてばんばんぬるくしてくれました。
わははは、やっぱこの温度って異常だったんだね。
わたしは、地方文化人始めとした常連さんに遠慮して熱いまま我慢してたんですけど、こういった銭湯の常連さんは他人への気遣いがすごいから、地方文化人の方も私と同じように、
「この新顔、こんな熱いのに何か気持ち良さそうにじーっとお湯に入ってるな。多分熱いお湯が好きなんだな。仕方ねえ、バカに熱すぎるお湯だが、水でうめるのはこいつが出てからにしてやろう」
って思ってたに違いない。
やっとこれで常識的な湯温になり(といっても、ぬるいお湯が好きな私にとってはまだまだ熱いけどね)、平和な気分でお湯に浸かる事ができました。
体を洗い終わった如来さんもお湯へ入ってきて、気持ち良さそうにしてました。

遠鉄バスの伝馬町バス停から徒歩数分。
夕刻に街中に来て、もし時間があるのであれば皆さんも是非巴湯に寄ってみたら如何でしょう。
たった330円支払うだけで、素晴らしい暖簾、素晴らしいお湯(ちょっと熱い)、素晴らしい風情、素晴らしい女将、素晴らしい常連客を味わえます。
出来るだけ利用して「浜松の文化施設」がこれ以上減らないようにしましょうよ、ね。

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コメントどうもありがとうございます。
貴方のコメントは世界とワシとあなたを救う。
たぶん。