2013年3月21日木曜日

九重湯(1)

関西の銭湯については情報収集が少しずつ進んできてはいるものの、最近においては結局伊丹にある力湯にしか行ったことがないという一寸悲しい状況です。
存在を知っていて行きたいと思っている関西方面銭湯としては、
  • 新庄温泉(大阪)
  • 荒神温泉(宝塚)
  • ぎょうぎ温泉(伊丹)
  • 橘温泉(伊丹)
  • 昆陽温泉(伊丹)
  • 草津温泉(滋賀県)[1]
などがありますが、これらの銭湯についてはそのうちぼつぼつ行こうかなと思います。
今回は何年か前に、10年くらい前かなあもっと前かな、時期はよく覚えていないんだけど一回だけ行った事がある銭湯について思い出しながら書きます。


それは九重湯(京都府京都市南区東九条南山王町28:075-681-3634:¥410:16:00~23:00:日曜定休:公式Websiteなし)です。

確かその日は、ホントによく覚えてないけど誰かとの待ち合わせで京都駅へ行ったんじゃなかったっけなあ。
兎に角何かの用事があって京都駅まで行ったんだけど、待ち合わせ時刻より随分前に駅に着いちゃったんです。
そこで時間潰しも兼ねて九重湯に行ったんだと思います。

JR京都駅の八条口、つまり新幹線側と言うか近鉄側と言うか南側と言うか、まあはっきり言えば寂れてる方(失礼^^;)を出て、東に暫く歩きます。
そうすると竹田街道という少し交通量の多い道路に出ますのでそれを南に下ってそうだな約5分、交番のある次の角を左に入るとそこに九重湯はありました。
交通量の多い竹田街道から数十m入っただけの狭い路地、いきなり20年くらい時間が巻き戻っちゃった感じの住宅街にあるその銭湯は、ベタな比喩で全く恐縮なんですが、誠に京都らしい風情に満ちた佇まいです。

表からの入り口で男女別に分かれているタイプで、男湯は向かって左側。
暖簾をくぐり、引き戸をガラリと引いて中に入ると右側に番台があります。

番台の中に座ってたおばちゃんに、
「こんにちはあ」
と声をかけ、お金を払いながら、
「すみません。通りがかりで石鹸もタオルも持っていないんで、それも一緒に払いたいんですけど」
とお願いすると、
「ああ、そう。ちょっと待ってよ」[2]
と言いながら番台の中を少しゴソゴソしていたんですが、消えかかってるけどケースにマジックペンで「九重湯」と書いてある石鹸と青いタオルを私に手渡すと、
「いいよ。これ貸してあげる。使いなさい」
おお。
何か少し感激してしまいました。
板場に上がって服を脱ぎ始めるとおばちゃんが入ってきてさっと脱衣かごを出してくれて、
「服はこの中に入れておけばいいからね~」
何だか色々細やかに気にして貰える銭湯。
脱衣場は、もうこれ映画のセットでしょうと思えるくらいの典型的な昔ながら感。
時間が早いためかたまたまなのか、客は私と先客の2人だけ。

お借りした石鹸とタオルを持って浴室内に入りました。
浴室は建物の外見や板場と同じように昔ながらの風情に満ちた空間でした。
今ではあまり使われていない小口のタイルが主に使用されていますが、寧ろそれが歴史ある銭湯との感じを高めてくれてます。
清掃が大変行き届いた清潔な空間という記憶があります。
入って右手に中振りの浴槽が3つ並んでいます。
手前が少し深くなった浴槽で、小さなヴィーナスがお湯を注いてくれています。
次が普通の深さの気泡湯で、先客のおじさんはそこに入って気持ちよさそうな顔をしてます。
一番奥が普通の深さの静止湯。

しかし、私にとって九重湯のメインイヴェントはそれら3つの浴槽ではなく、浴室入り口扉のすぐ右手にある人間洗濯機であります。
大阪万博(小学生の時に行ったぞ。懐かしいなあ)で出展されていた人間洗濯機(万博の時に見たぞ。懐かしいなあ)ではなくて、小さな丸い浴槽の中のお湯を、お湯を噴出させる力でくるくる回して人もくるくる回してしまうというものです。
私は何故か当時から人間洗濯機に強い憧れを持っていて、小さな浴槽の中を奔流のごとく荒れ狂い回転しているお湯の中でもう滅茶苦茶に揉みくちゃにされたいという強い願望を抱いていたのです。
今もそうですが、変ですかね?
なので、これはここ数年の話ですが、地元にあるスー銭にそれがあると聞いて出かけたら廃業していたり、伊丹の力湯という銭湯に言った時、浴室の傍らに小さな丸い浴槽があって「おを。これはもしや」と思って入ってみたけど、いまいち迫力不足だったりという体験があり、真の意味での強力な人間洗濯機に出会いたいと思っている次第であります。

浴室に入ると素早く体を洗い、先客おっちゃんのことは目もくれず人間洗濯機に直行しました。
人間洗濯機であるからにして以後は浴槽という用語を使用せず、以後「洗濯槽」と表現しますが、その中には何かいくつかの色の原色ライトがひかり輝いており、昔だったら確かに「未来的」と表現されていたに違いありません。
なんて言うんですかね、低予算て制作されたベタでB級なSF映画に登場するUFOから放たれる光、と言えばイメージわきますかね^^;
そして洗濯槽内では洗濯水がゆっくりと力強く回転しております。
早速洗濯槽内に身を沈め、回転する暖かな洗濯水に身を委ねてみました。

…ん、おかしい。
上手く回らない。

見た目には確かに力強く見えるのですが、小柄とはいえども人ひとりを揉みくちゃにするほどのパワーは流石に有していないようであります。
洗濯槽の底に触れる面積を出来るだけ少なくして摩擦を減少させるような体勢を色々工夫してみましたが、うーん、くるくる回るというレベルまでには達しません。
最後はポンポンと洗濯槽の底を手で抑えて、体を洗濯水に浮かせるような事を繰り返し、やっと何とかゆっくりとした回転を得られました。
これは楽しい。
回転がゆったりしてますんでそれにより目が回ったり気持ちが悪くなることはないし。
幸いなことに先客のおっちゃんはただ瞑目してじっと動かず、お湯に浸かり続けていて、私のことは全く気にしていないようです。
これ幸いといろんな体勢でもってじんわりユルユルと回り続けるガキのような私でありました。
そのような感じで長い時間かけて効率のよい回転を得るために創意工夫を凝らしていると、何だかだんだん頭がぼ~っとしてきて、これはいかん。
湯あたりだ。
もう少し入ってたかったんですけど、私は暑さ熱さにとても弱いのでこれ以上はキケンと判断し、断腸の思いで洗濯槽を出たわけであります。

あの、今回は人間洗濯機のことばかり書きましたけど、冒頭述べたようにここ九重湯は、歴史というと大げさかも知れないけど、流れてきた時間を感じさせるような本当にいい空間です。
ですので皆様、京都観光に出かけた際には、京都駅から歩いて僅か5分のところにあるこの素敵な銭湯に出かけてみてはどうでしょうか。
調べた限りでは、今もまだまだ元気に営業中とのことです。

[1]
滋賀県草津市にある銭湯です。
関西では銭湯名に「温泉」を付与することが一般的であり、かつ草津市内にあるということから言っても、この呼称は特に誇大とか詐称とかの類ではなく、全く以て問題ないと言って差し支えないでしょ。
とは言え、群馬にある有名な温泉地と偶然にも名称が一致しているいる事が面白そうなので、一度は行ってみたいと思ってる訳です。

[2]
当然綺麗な京都弁で喋ってた訳ですけど、私はそれを再現できる程京都弁に詳しくないので、申し訳ありませんが本文中では標準語で表現させて頂いてますm(__)m


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