2023年10月21日 入院3日目
即ち、禁酒3日目。
はっきり言ってこの数年酒を絶やした日はほぼ皆無なので、入院前に抱いた不安は「酒無しで4日間も耐えられるか」というものじゃったが、今んとこなんとかなっとる。
とはいっても1日目は15時入院で実質夜しか過ごしてないし、昨日は朝からいきなりアブレーションじゃったから酒どころの話ではなかったし。
麻酔から覚めたのは夕方だし、その後夕飯食ってすぐ寝ちゃったし。
従って禁酒については今日明日が本番だけど、なんとなく大丈夫なような気がする。
今はむしろ煙草への欲求が強いが当然のことながら吸うことはできんし、幸い「万難を排してでも的」にまで吸いたいとは感じない。
ちなみに禁煙外来で処方されたニコチネルパッチは家に忘れて入院後は貼っていないが、イライラとかは不思議に感じない。
吸いたいのはもちろん吸いたいが我慢は出来る。
禁煙についてはこのまま行けそうな気がする。
病棟ってのは当たり前だけど夜通しなんかしらの活動していて、ワシが入っとるのはいわゆる救急病棟なので余計にそうなんじゃろうが、ナースステーションや各病室から常にぴいとかふぃんふぃんふぃんとかぶーとか音がしとるし、看護師さんじゃろうけど急ぎ足でサッサッサッと歩く足音なんかが途絶えることがない。
そのせいか昨夜はよく眠れず。
ただ、午前9時過ぎから夕方まで麻酔で寝ていたせいか、夜に寝不足でもそんなにしんどい感じはしない。
朝食は意外にも、まあまあ美味かった。
メインディッシュの「白身魚のワイン蒸し」は上々だったし、甘い芋系が嫌いなワシじゃが、レモンをたっぷり使ったさつまいものサラダも美味しく食えた。
お麩のお味噌汁もお代わりが欲しいくらいだったし、白飯も上手に炊けとった。
さあ、昨日やったアブレーションについてじゃ。
カテ当日の昨日は禁酒禁煙どころかカテ室から出て目が覚めるまでは飯も水分も禁止。
従って朝飯抜き。
喉が非常に乾いておるのでだいぶつらいが仕方ない。
少しウォーキングして病室に帰って待っとると8時すぎに看護師さんがやってきてバイタルをチェックし、そのあと何気なくしなやかに流れるように、
「おしっこの管を入れますね〜」
と爆弾発言を投下して優しくワシに微笑む。
何食わぬ顔して悪魔の微笑み。
尿道カテーテルを入れられるのは人生始めてなんじゃが、自分の勝手な想像では入れられるのはせいぜいほれ、ボールペンの芯くらいの太さの管じゃろうと考えておった。
だって尿道じゃよ。
まあボールペンの芯くらいならなんとか耐えられると諦めておったが、その看護師が手にしとるのはそうだな〜どうだろう、外径5〜6mmはあろうかという邪悪な色をした管。
それこそ鉛筆くらいの太さがありそう。
今までのワシの人生では色々な出来事があり「嗚呼こりゃもうダメだ」と思ったことは何度かあるが、今この邪悪な色をした太い管を見たのに比べりゃあすべて何て事はない、ゆる〜いカジュアルな出来事にしか過ぎない。
今、この管からは「完璧なる絶望」しか感じることができん。
微笑みを浮かべながらその看護師は有無も言わさずワシのパンツをスルッと脱がし、「消毒しますねー」と明るく声を掛けてからデカい綿棒のようなもので消毒をした。
これはいかん、いかんぞ。
本当にやるつもりらしい。
ワシとしてはダメ元で、
「すみませんあのう、やはりその尿道カテってのは必須なんですかねえ?何て言うんですかね、こう何とかそれはやらない方向での検討は出来ないもんでしょうか」
と交渉を持ちかけたが、
「ははははっ、出来ませんねえ♡」
と、消毒作業を手際よくこなしながら看護師は即答し、
「じゃ、入れますね〜」
「あ、少し待ってください。おいちょっと待て。痛いですかぁ?」
「はい、痛いみたいですね。私はやったことないのでわかんないんですけど。えっと男の人だと3回痛いらしいです」
「へ?3回だ?3回もですってあうっ!」
やられた。
なんだろ、針をさされたような痛みではなくて痺れが最高度の痛みになったようなこれはもう二度と嫌だと感じるような邪悪な痛み。
結果として、この尿道カテーテル挿入時の痛みが今回入院時における最大最高の痛みじゃった。
いや挿入時だけではなく、翌日抜去後も排尿時における痺れたような痛みが暫く続き苦しんだ。
本当にもう二度と体験したくはないなあ。
で、本番カテの前の尿道カテ挿入も終わり、ワシは病室ベッドからストレッチャーに載せ替えられてカテ室に向かった。
看護師が誰かに「オペ出し行ってきま〜す」と声を掛け、「お願いしま〜す」という返事が聞こえた。
正確には「カテ出し」ではないかとの疑念がちらと過ぎったがどうでもいいことじゃろう。
朝の病棟廊下はワゴンやら何やらがたくさん置かれていて、それを避けるようにして看護師は巧みにストレッチャーを転がしていく。
まるで上級者によるジムカーナのような巧みなストレッチャー捌きにワシは感心した。
エレベータに乗り、上に登ったのか下に降りたのか覚えとらんが停まってドアが開きまた廊下をごろごろ転がされて、デカい自動ドアの前でピタリと停止し、看護師がインターフォン向かって「オペ患者さんお連れしました」と言うと、中から「患者さんの名前お願いします」。
ワシの名前が告げられ、すぐにデカい自動ドアが開け放たれ、中にいたカテ室ナースの「頭から入れて下さ〜い」の指示に従いワシは頭からカテ室に進入した。
一般的なオペ室と違うのは、大きな無影灯とかはなく、壁際には大きな本棚が設えてあって其の中には本とか資料とかがぎっしり詰め込んである。
正直「雑然」とした感じ。
侵襲的な手技を行う空間ではなく、医局と外来の中間的な雑然さで構成された空間。
3人位の看護師?臨床工学士?医師?放射線技師?検査技師?がわらわらと寄ってきて体の表や裏や横にいろんなものをベタベタ貼り付け始めた。
貼り付けながら「いや〜、実は今朝ERが何か立て混んでまして先生がそっちに行ってますので開始が少し遅くなると思います。ごめんなさいね」と伝えてくれた。
救急に関わる医師はほんとに大変じゃと思う、ご苦労さまなことよ。
で少し待つと医師も到着したようで、術前のタイムアウトを行っておる様子。
そのあとその医師(マスク姿でよくわからんがおそらくM2先生)が横に立って、全麻で行うこと、術中に体が動くと危険なので手足を拘束すること、あと何だったかな、あといくつか何かを伝えてくれたが緊張して覚えとらん。
ただ兎に角、
「麻酔掛けてやります。殆どの患者さん全員『寝てる間に終わってた』っておっしゃってくれますよ」
という言葉が本当にありがたかった。
ワシもそうであってほしい。
「アーム持ってきますね」と誰かの声がかかり、顔の前にC型をした機械が設置され、で、その後の記憶がいきなり消失している。
その時点で腕につけられた点滴用のルートから麻酔薬が注入されたのじゃろう。
あとの記憶は、術後目を覚ますまでの記憶は一切ない。